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第三章 ゼウス、策を練る
「ゼ、ゼウスって、あの良く聞く――」
青年は、目玉が飛び出るのではないか、と思う程驚いた顔をしている。余程、神が目の前に現れて驚きを隠せないのだろう。
「そうだ、きっと皆が知っている、あのゼウスだ」
「…詳しい話は知らないけど、ゲームとかのキャラクターになっていますよ、ゼウスさん。え、ドッキリか何かですか? こんな田舎にカメラが来るなんて…」
「何を、訳の分からない事を言っている。先程言ったはずだ、向かい側のホームにいる、女子との恋を応援する為に来た、と」
「だから声が大きい――って、周りには聞こえていないんでしたっけ」
「ちなみに、私の姿も他の人には見えていない。要するに今、青年は独り言を呟いているように、女子から見えているはずだ」
私が事実を伝えると、青年は手で顔を覆い、しゃがみ込んだ。同時に電車が女子の姿を隠し、そのまま彼女を乗せてホームを離れて行った。
「終わった…絶対変人だと思われた。もう、彼女の顔を見られない…」
「安心しろ、変人でも好きな女子と恋に堕ちることは出来る。私に、ある策がある」
「策って何ですか…策って」
青年は、少し膨れ面をしつつ、興味を持っている様だった。
「…まず、青年は恰好良くない! まずは身嗜みのレクチャーからだ」
青年は俯き、大きな溜め息をついた。
「恰好良くない事くらい…僕でも分かりますよ。整形でもしろと言うんですか」
「違う、自分に自信を持てる位、己を磨いているか? 元々持っている物の活かし方が分かるだけで、気持ちは変わってくる」
青年は無言のまま、唇を噛み締めている。
「その穴の空きそうなパンツを脱いで、皺のないパンツを穿く。乱れた髪を整えるだけで、印象は変わるものだ。青年は、コンプレックスはあるか?」
「コンプレックスの塊ですよ。顔も、この貧弱な身体も…」
「そうか、私も昔は、この白く血色の悪い肌がコンプレックスでな。昔はよく、太陽神アポロンが経営している、日焼けサロンで焼いたものだ」
「え…神様が、そんな事するの? 変なの…」
青年の口元に、少し笑みが戻った。
「誰にでもコンプレックスはあるものだ。…よし、良い事を考えた! 青年に美の女神、アフロディーテを紹介してやろう」
両手を天へ向け、意識を集中させる。
「出でよ、アフロディーテ!」
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