8人が本棚に入れています
本棚に追加
第四章 ゼウス、召喚する
ーーいつ夢が覚めてくれるのだろうか。
ゼウスを名乗る男性が、空へ両手を上げて叫んだと思ったら、空から一筋の光が射し、その光の道を通って、女性が物凄い勢いで降ってきた。
女性が地上に来る間、時を止めていたゼウスが再び、指を鳴らした後、乗るはずだった電車が来たというのに、驚きのあまり、乗る事が出来なかった。
「ふわぁ…ゼウス様、お呼びですかぁ?」
今や消え去った白煙の中から出て来たのは、絵画から出てきた様な、上半身裸の、美しい金髪の女性だった。
僕は思わず目を両手で隠した。
「あら…何を、照れた顔をしているのかしら」
「服! 服、着て下さいよ!」
ゼウスが、自分の身に纏っていた白い布を、アフロディーテの肩から下げた。
「そう、この国では、身体を隠さなければならないのねぇ…で、ゼウス様、何か御用ですかぁ?」
女性が布を身体に巻きつけた事を確認して、僕は手を下ろした。
「ふむ、この青年が恋をしているのだが、まず彼に自信を持ってほしくてな…身嗜みの事なら、美の神アフロディーテに聞くのが一番だと思ってな」
「恋、ですか! ふふ…何か面白そうな事をしていますね!」
華の香りが漂う女性に顔を覗かれ、僕は思わず照れてしまった。
「でも、まず…その彼女が、どんな男性が好きか気になりませんか? 天空のエロースちゃんに、リサーチする様に頼みませんか?」
「さすがアフロディーテ、名案だ」
ゼウスは、額に指を二本当てると、真剣な眼差しをして、何か唱え始めた。もう、何が起きているのか、さっぱり分からない。
「…よし、信号を送った。判明次第、すぐ天から矢文が飛んでくる」
「さっすがゼウス様、仕事が早い!さぁ、その間に…青年くん!笑顔の練習しようか!」
僕は、思いもしなかった事を言われ戸惑ったが、一度頭の中を整理して冷静になった。
「あ、あの…」
「なぁに?俯いちゃって、どうしたの?」
「取り合えず…ここでは恥ずかしいので、僕の家に来ませんか」
最初のコメントを投稿しよう!