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時は午四つ時、村中の人々が鳥居の元に集まる中、竜之介は瞳を閉じて天に両の手をかざし、大きく一度頷くと、村人たちに告げた。
「その娘を、生贄に捧げよ。さすれば雨を降らせようとの、龍神様のお告げがあった」
そう言って竜之介が指差した先にいたのが、弥八とお夕の一人娘、小雪だった。
当然、弥八とお夕は反対した。
だが、既に自らの飲み水さえ危うい状態にあった村人たちは、弥八とお夕を取り押さえると、強引に小雪の手を引き、竜之介に差し出した。
「ほ、本当に、私がこの身を捧げれば、村は救われるのですね」
小雪は震えながらも、竜之介に問うた。
「ああ、間違いない。私の言霊は、龍神様の言霊である」
竜之介は大げさな身振りで再び両手をかざすと、境内中に響き渡る声をあげた。
「せめて、今晩だけでも、一晩だけでも、別れを惜しませては下さらぬか」
村人に取り押さえられながら弥八は請うたが、竜之介は大きく首を振った。
「ならん。これは一刻を争うのだ」
その言葉に、小雪はその頬を濡らした。
弥八とお夕も泣き叫びながら、小雪の名を何度も呼んだ。
「よいか、これから明日の辰の刻まで、何人たりともここに立ち入る事はならんぞ。分かったら、早々に立ち去れい」
竜之介はそう告げると、容赦なく小雪を社の中へと引きずっていく。
後ろ髪を引かれる弥八とお夕を強引に引き連れながら、村人たちは社を離れた。
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