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語られた理由
「私を、知っているのですか」
その少女は辰吉を知るはずがない。が、辰吉には分かっていた。
「おらは、お前さんのご両親に世話になっている。話は聞いていたからな」
「おっとうは・・・・・・おっかあは、げ、元気でしょうか・・・・・・」
その声が震えているのが、寒さのせいではない事は辰吉にもよく解る。
「ああ、元気だ。でも今はお前の方が心配だ。一体何があったんだ?」
小雪は、喉を何度も詰まらせながらも、そのいきさつを辰吉に話した。
生贄として捧げられ、そのまま地下で連日のように凌辱された挙句、二月経った頃に小雪が赤子を宿したと知るや、竜之介が小雪に呪いをかけた。
その時代、神仏に仕える者は、妻帯を許されてはいなかった。
当然、女人と交わる事も固く禁じられていた。
自身の赤子を宿されるなど、竜之介には許される事ではなかったのだ。
竜之介は、呪術によって小雪の体から水分を全て取り除き、その体を干物のようにすると、そのまま森の奥へ捨てた。
捨て置けば野犬にでも喰われるだろうと竜之介は思っていた。
だが、野生動物の方が敏感だったのだ。
それに呪いが掛かっている事を察知し、獣たちは小雪をむさぼる事を避けた。
「なるほどな。しかし、水を得る事で元に戻るとは、やはりあの男の力も中途半端という事だ。まあ、当然と言えば当然だが」
辰吉は少し考える素振りを見せた後、小雪の方に向き直った。
「お前、水を得ないと、どの位でさっきみたいになってしまうんだ?」
「え・・・・・・あ、は、半刻ほど、でしょうか」
「そうか」
辰吉はしばし無言になったが、再び小雪の目を見てこう言った。
「悪いが、もう一度干からびてはくれないか。明日の夜、おらは必ずここにまた来る。その時はお前の服も持ってこよう」
「この池に居てはいけない、と、いう事でしょうか」
少し哀し気な表情の小雪に、信じてくれとだけ告げると、辰吉はその森を後にした。
完全に辰吉の姿が見えなくなってから、小雪はその裸身を池から出し、辰吉の言う通り水のない陸地に体を横たえた。
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