謀られた村人

2/2
前へ
/17ページ
次へ
 畑仕事を終え、弥八、お夕とゆうげを共にしていた辰吉も、二人からその噂を聞いた。 「な、だから、雨の日は森に近付いちゃなんねえぞ」  弥八に言われて、辰吉は小さく頷いた。 ー雨の日に近付いちゃいけないんだな、分かったよー  瞳の奥を鈍く光らせながら、辰吉は心の中でそう呟いた。 「ところで」  辰吉が口を開くと、弥八とお夕の表情がぱあっと明るくなった。  辰吉がこの家に住むようになってからこの方、自ら進んで言葉を発するのは、これが初めてだったからだ。  ようやく心を開いてくれたのだと思い、二人は喜んでいるようだ。  瞳を輝かせ、何度も頷きながら、二人は辰吉の顔を見つめた。 「ここの神主ってのは、そんなに偉いのか?」  そう言われて、二人は顔を見合わせたかと思うと、すぐに辰吉に向き直った。 「そうね。この村を救って下さったのは神主様だから」  お夕はそう言いながらも、その表情を曇らせた。  代償として自らの娘を差し出したのだから、それは致し方ない事だ。 「なんでも竜之介様は、龍神様の申し子だそうだ。だから、龍神様のお言葉が聞こえるのだとか」 ーいや、そんな事、あり得ないー  辰吉はそう思ったが、口にする事はなかった。  代わりに、こんな事を口にしてみた。 「龍神様が、人の命を捧げろなんて言うかなぁ。仮にも神様だろ?」 「言ったんだから、仕方ないだろ!」  顔を真っ赤にして、立ち上がりながら弥八は大声を張り上げた。  が、すぐに落ち着きを取り戻して、辰吉に向き直った。 「俺も信じたくはない。ないが、事実雨は降った。それが真実でないとしたら、俺達の娘は・・・・・・無意味に・・・・・・」  弥八は肩を震わせた。  お夕は両の手で顔を覆い、その涙を隠した。  二人の怒りと哀しみに満ちたその態度に、辰吉はそれ以上話すのを止めた。 「ごめんなさい。今日はこれで寝ます。おやすみなさい」  辰吉はそれだけ告げると、ゆっくりと立ち上がる。  しかし、辰吉はその夜、眠る気はなかった。  一刻も早く解決しないと、近々また、犠牲者が出る。  辰吉には、また干ばつが訪れる事を予見できていたのだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加