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干からびた人形《ひとがた》
既にその予兆はあった。
この冬は、雪が殆ど降らずに、東の山は既にその山肌を露わにしている。
そしてここ十日程、雨が降っていない。
徐々にではあるが、村の中心に流れる川の水も減ってきていた。
辰吉は、弥八とお夕が寝静まったのを確かめると、そっと家を出た。
向かう先は、東の社の更に奥の森の中。
辰吉の予想が当たっていれば、そこにいるのは物の怪などではない。
何らかの理由で村に戻れない小雪なのだ、と、辰吉は考えていた。
辰吉は、竜之介に悟られないように、南側の森から回り込むようにその森に向かった。
月明りが、辰吉を歓迎するかのように足元を優しく照らす中、ゆっくりと歩を進める。
暫く歩くと、虫の音以外何もない、静まり返った森の奥から、なにやら別の音が聞こえてきた。
その音に向かって歩いて行くと、音は段々大きくなり、やがて森が開け、霧状の粒が、辰吉の頬をそっと濡らした。
目の前にあるのは、大きな滝だった。
滝壺は比較的広く、円弧上の滝下は、その直径は十メートルはあるだろう。
それでも例年よりは小さいのだろうと思いながら、滝の下に出来た池に近付くと、足元に十センチ程の木っ端の様なものが目に入った。
辰吉はそこからにじみ出ている禍々しい何かを感じた。
それは人の様な形をしている。
しかし、人形にしては余りにもいびつで、ミイラの様にも見える。
辰吉がそれを手に取ると、どこからか声が聞こえてきた。
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