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またお前か……―――
この台詞を今までの人生で何人に言わせてきただろうか。もはや数える事自体億劫なのだけは間違いないのだろうけど。
この前言われたのはいつだっけ。ぼやけた煙が燻る脳内をかき分け、記憶を引きずり出そうとしていると、唐突に後頭部への馬鹿痛い拳骨。現実へ逆戻りだ。
「ってェな……暴行罪だぜコレ。訴えてやろうか?ん?」
お決まりのモンスタークレーマーじみた台詞を口にしてみるも、だれがどう見たってこの痛みは自業自得で、何故かという理由は、組み敷かれた地面からほんのちょっぴり顔を上げた先のガラス窓いっぱいに描かれた飛び切りクールなグラフィックが、今まさにお前だよお前と指をさして憤慨しているからかもしれない。
「調子に乗るのもいい加減にしろ!警察相手に何が暴行罪だ。お前一人だけでこの一月の間に何件面倒ごとが起きたと思っている!」
顔を真っ赤にして頭から大噴火しているのは、まさかまさかの俺の親父であり、鬼の刑事課課長、通称『最古の地獄の番犬』とまで歴代逮捕者に言わしめた赤間正義(あかませいぎ)その人だ。今日も一段と煮えたぎっておられる。おかげでこっちは暑苦しくてかなわない。だからこそ、こういう事態になっているわけなのだが。
「ほんっとしつこいねぇ。いいかい?親父に俺を縛っておく事は出来やしないんだって。知ってるだろ?どんだけ豚箱に放り込まれる判決が出ても、その日のうちにはまた俺の手配書が出回っててもおかしくないんだからさ。何度やっても一緒。鼬ごっこなのはもう気付いてるだろうに」
「それでも!俺が刑事で、進(すすむ)、お前が息子であり犯罪者であり続ける限り、追わねばならん。鼬ごっこなどではない、お前が、諦めればそれで済むんだ。何度でも言ってきたことだろう。何故わかってくれない……」
ぎちり、と。奥歯が食い込む音がした。
そこまで強く噛み締めたつもりはなかったが、よほど内心苛ついたのかもしれない。
「やっぱり鼬ごっこだって。俺はアンタが刑事であり続ける限り、いくらでも逃げ続けてやる。わからないだろうよその発言を聞く限りは。俺が何でこんな馬鹿げた事件ばっかり犯してるかなんてさ!」
「っ……」
ほんの一瞬、動揺を見せた親父、否、刑事の隙をついて一気に体を振り、拘束から逃れる。いくら番犬だと言っても、噛みつく歯がもろければこんなものさ。
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