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  対岸は、白黒の世界だった。 黒い大地にただ佇む、何もかも白い人々の群れ。それは、どこまでも広がっている。 息を切らしているのは自分だけだ。 何故こんなに必死だったのか。 自分は誰なのか。 どうして、胸の奥が少し温かいのか。 わからない。 いくらか歩いて、足を止めた。 思考はほどけるばかりで、もうなにも無い。 周りと同じように佇むうち、白い群を割って、黒い一団が現れた。 次々と白い人々を連れていく彼らの中に、一際目立つ姿があった。 似たような姿かたちの中で、静かに指示を出す者。 目が合い、王だと判った。 告げようとしていた指示を止めたためか、周りが止まる。 音の消えたなか、一人近付いてきた 眼前に立った王は、胸元に触れ、少し驚いたようだった。 「……あぁ、お前は美しいな」 微笑んだ王の手が頬をすべる。 触れられた場所が、熱を持つようだ。 何故か分からないまま、僕は王の表情を真似ていた。  
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