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巧巳は昔から泣き虫だ。周りには強がっているように見せているくせして、人一倍思いやりがあって思慮深くナイーブで涙もろい。私だけが知っている、巧巳の弱さ。
「大丈夫、私がついてるから。大丈夫だよ、巧巳」
途切れなく泣く巧巳の背中を擦る。
__大丈夫。さっきは言葉にすることが出来なかったけど、この言葉を口にしたことで、私の覚悟も決まったような気がした。
結婚を決めた時、巧巳と一生添い遂げると覚悟を決めたんだ。今後、何があろうと、私は巧巳を支え続ける。
__「真美、ありがとう」
帰り際、涙の筋を頬に残したまま、巧巳は笑顔を私に向けた。
その笑顔は嘘ではないだろうが、私を安心させようと無理をしているようで、痛々しくて胸が痛くなった。
思わず涙ぐみそうになり、慌てて笑顔を取り繕った。
「明日は休みだから朝から来るね。眼帯変えてもらうように看護婦さんに言っておくね。家についたらラインするから」
「おう、ありがと。待ってる」
スライド式のドアが閉まると、数秒静かにドアに凭れ掛かり、天井を仰ぎ涙を奥へと追いやった。涙で濡れてしまった眼帯を交換してもらうよう看護婦さんに頼んだ後、病院を後にした。
__私、巧巳の前でちゃんと笑えてたかな。
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