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【1】~間宮巧巳side~
__「坂下さん、今日はどうなさいますか?」
「カットとカラーで」
「かしこまりました。いつもと同じカラーで宜しいですか?」
「はい」
俺は、美容専門学校を出たあと、東京都武蔵野市にある吉祥寺のDOTAYAで二年間働き、今は地元である千葉県鴨川市で美容師をしている。
美容師としての仕事にも慣れ、指名客も増えはじめ、安定した収入を得られるようになった俺は、幼なじみで長年付き合っていた真美との結婚を決めた。
そんな俺の体に異変が起きたのは、婚約を翌月に控えた二月半ば、常連客の坂下さんのカットをしている時だった。
__あれ、なんだろ。
突如目の前が白い靄が掛かったようになり、視界が霞みはじめたのだ。
痛みはない。目の中にゴミが入っているような違和感もない。目を擦ってみたが、白い靄は徐々に酷くなっていき視界はどんどん狭くなっていく。
髪を切っているつもりが、ハサミが空を切る。
指名してくれたお客様を放り出すわけにはいかないので、なんとかカットカラーを終えた後、店長に症状を伝え、早退させてもらい眼科へと向かった。
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