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「お母さん」
お母さんはエプロンで涙を拭いながら顔を上げる。
「私、巧巳のことが好きなんです。おばあちゃんになんと言われようと、巧巳が私を拒絶しようと、巧巳の傍にいたいんです……ダメですか?」
お母さんは赤く潤んだ瞳を驚いたように一瞬だけ見開くと、唇をほころばせた。
「真美ちゃん……ありがとうね。本当にありがとう。そんなに巧巳のことを想ってくれて……。巧巳ね、今、沙理のことろに行ってるのよ。この店の客には巧巳の病のこと誰にも言ってないの。巧巳自身が言わないでくれって言うから。同情の目で見られるのが嫌なのかもしれないわね。だから、数週間だけ体の回復と休息も兼ねて沙理のところに行ったのよ」
沙理さんとは、巧巳の六歳上のお姉さんだ。お姉さんは結婚して大阪に住んでいたのだが、この四月にご主人の転勤で千葉県柏市に引っ越してきたのだ。
巧巳のお母さんは、沙理さんがこのタイミングで千葉県に転勤になったのは運命、奇跡だとも言っていた。頼りになるお姉さんが近くにやってきたのは、お母さんも巧巳も心強いからだ。
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