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何コレ、夢?夢だったら早く覚めてくれよ。
だが、左目が眼帯で覆われていて視界が悪く、周りを見渡せばここは病室で。これが夢ではないことは明らかだ。
事実だと実感した途端、涙が込み上げてくる。
「うっ……」
俺の病室の目の前は太平洋の海。俺が育った海の街。幾度となく真美と歩いた海岸線。どこまでも続く青い海が好きだった。だが今は、無限に波打つ波が留まらないのを見ているのが怖い。波と同じように俺の病も終わりは訪れない。終わりのない不安にたまらなく怖くなる。
昨日まで普通に働いていたのに。今まで大きな病気も怪我もなくいたって健康に……いや、健康ではなかったんだ、実際は。
仕事も軌道に乗り、真美との結婚も決まり、俺の人生これからだって時に……。
描いていた未来が、ガタガタと音を立てて崩れ落ちていく気がした。
__この世の終わり。俺の人生、ジ・エンド。
「……っく……うぅぅ」
子供みたいに嗚咽が漏れる。拭っても、拭っても、一度堰を切った涙は止めどなく溢れてきてしまう。
陽が傾き始めた時、やっと少しだけ気持ちが落ち着いた。
ふと窓の外に目をやると、真冬の夕陽に照らされた海が淡いオレンジ色に輝いていた。あそこの浜辺でもよく真美と遊んだな。
__真美に言わなきゃ。
真美、なんて言うかな。結婚、やめるって言うかな。
※成人式にて


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