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雨が降る中で、彼女は
「ねえ――雨が降っているよ?」
「う~ん……やっぱりこんな天気は嫌だなぁ」
雨が降っている中、僕は傘を差しながらひたすら真っ直ぐに歩みを進める。
雨と言う憂鬱になりそうな天気に、一体何をしに外出しているのかと言われれば、それは即答でこう答える。
『嫁の為です』――と。
僕の嫁の為に、僕はこうして雨の中で傘を差しながら歩いているのだ。
「あ、ほらほら! 水たまりに車が突っ込んで水がバッシャーンって! あっぶな!」
「水たまりの傍に誰もいなくて良かったなぁ……」
大きな水たまりの中に車が突進し、急に入って来た邪魔者から逃げるかのように、水たまりの水が大きく跳ねた。
その傍に誰もいないのは、まあ安心したとも言える。
だってこんな雨の中で全身水浸しになったら目も当てられないし、見ているこっちも助けに行かないといけない。
こういう言い方はあまり良くないと思うが――時間を取られなくてよかった、と。
雨の中を長時間居続けるのは変わった人だけだと思っている僕。
その変わっている人の中に『僕』は含まれていない。
だから早く嫁の為に目的地まで行きたいんだ。
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