雨が降る中で、彼女は

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「――そう言えば、私達が出逢ったのも、てるてる坊主のお蔭だったよね?」  ――ふと思い出す、僕の嫁と初めて出逢った時のことを。  あの時も雨で、会社から疲れて帰って来た僕の部屋があるアパート――その部屋の前に。  ……誰が飾ったのか知らないけど、玄関に『てるてる坊主』が吊るされていた。  あれは衝撃的だったけど、疲れていたからどうでもいいかと思ってそのまま家の中に入って寝たけど。  今考えたら「その時点で不審に思えよ」って言いたくなる。  でもそんなことにさえ思考を働かせる気力もなく。  倒れるように寝た僕――次の朝、また会社に出勤するべく、玄関の扉を開けたら。 『あ、てるてる坊主ですね。可愛いですよねぇ~』  ――と、目の前で見知らぬ女性が玄関に吊るされていたてるてる坊主を見ていたのは心底驚いた。  僕が作ったわけでもなく、僕が飾ったわけでもないそれを、その女性は『僕が作って飾った』のだと思い込んでいたのだ。
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