雨が降る中で、彼女は

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『でも……残念ですね。今日も雨ですよ』  誰が作ったのか分からないてるてる坊主は、その役目を全う出来ずに。  その日の天気も雨だった。 『あ、失礼しました。私、そこの角に引っ越してきた者です。同じ階なので、何かあったら手助けお願いします!』 『え、普通逆じゃないですか?』  元気よく挨拶をして来たのは良いと思うけど。 『何かあったら助けてください』――と、前もって宣言しに来るのはどうかと思う。それも初対面の挨拶の時に。  だから僕は何の躊躇いも無くツッコミを入れてしまって。  そこから彼女――僕の嫁になる女性との接点を持った。  まあ、そこからは楽しい日々だったと記憶している。  社畜同然の僕だったけど、大学生だった彼女は見知らぬ土地で知り合いも誰もいない中で。  偶然、僕と接点を持ったお蔭で何度か家に突撃したことがあった。それもアポなしで。  まあ、それはそれで良かった。  例えば――僕の代わりに料理を作ってくれたとか。……失敗していたけど。  例えば――部屋が汚いと言って、代わりに掃除してくれたとか。……危うく預金通帳まで捨てられるところだったけど。
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