雨は思い出を潤して

雨が降る中で、彼女は

　ちょっと抜けていた当時の僕の嫁――だけどその笑顔がとても愛おしくて。
　気が付けば、僕は当時の嫁に『付き合ってください』って頭を下げていた。
　僕のその言葉と姿勢に驚いた嫁だったけど、
『え、私達付き合ってなかったの？』
　――と言われた時は文字通りに目玉が飛び出そうになった。

　いやいや、付き合うもなにも――
　ただ一緒の部屋の中にいて、一緒にゲームしたり、一緒に映画を観たりしていただけで。
　一線は超えていなかったわけで。
　そんな言葉が返って来るとは思わなかったわけで。

『じゃあ改めて――私と付き合ってください』

　――本来言うべきはずのその言葉を、嫁に言われたお蔭で。
　何だか身体中の力が抜けた僕だったけど。
　とても……とても嬉しくて。
　思わず涙が出てしまって……嫁に心配をかけたのは懐かしい記憶だ。