雨が降る中で、彼女は

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「懐かしいねぇ~。君のあの時の顔は今でも思い出せるよ」  あの時の僕の顔は、それこそ世界が終わったかのような顔だったんだろうな。  でもまあ、何の問題も無く付き合うことになった僕達は。  喧嘩することもなく、着実に仲を進めることが出来て。  そして――二年前に結婚した。  その後も……まあ、結婚しているはずなんだけど。  恋人時代と全く変わらない生活を送っていると、なんだか『結婚ってこんなものなのか?』と思ってしまった。  だけど家に帰ればいつも僕を出迎えてくれる嫁の笑顔と。  上達して、とても美味しくなった嫁の料理。  他にも数えきれないほど良いところがあるけど。  そんな嫁が大好きだ。  けど―― 「あ、やっと着いたぁ! こ~んな雨の中じゃあ、“来る”のにも一苦労だもんねぇ!」  もう……その嫁はいない。  嫁は今、僕が見ている墓の下で眠っているのだ。
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