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神様
「神の存在を信じるか?」
霧の向こうから男なのか女なのかも分からない声が響く。
「信じない」
私は答える。私は制服のままで、ここがどこかも分からないのにアヤシイだとかは思わなかった。そういう場所なんだと妙な納得感があった。
「何故?」
「だって奇跡なんて起きないし。神様が居たら、テストに苦しむことも、友達と喧嘩することも……事故だって、なくなるはずでしょ」
私は昔のことを思い出していた。もういない、あの子のことを。その記憶にくっ付いて、子供の頃はよく近所の神社で遊んでたなぁ、と懐かしさが湧いた。今では足が遠のき、あの長い階段を上る気が起きないけど。
「神は万能か?」
「神様だからね。人助けくらいして欲しいよ」
霧の向こうの影がゆらり、と動く。笑ってる?
「変わらないな」
何が?と訊く前に霧が濃くなって何も見えなくなった。
*
目を開けると私は白い部屋のベッドで寝ていた。病院だった。
数日ぶりに目を覚ました私は家族と友達から大層な歓迎を受けた。九死に一生を得る、なんてことが自分の身に降りかかるとは驚きだ。
私は長い階段を上って神社に辿り着いた。退院したばかりだったけど、子供の頃に比べたら大して長い階段ではなかったように思う。
五円を賽銭箱に投げ入れて手を合わせる。
「(ありがとう、神様。いまいち信じてないけど)」
あの霧の中で見たのは神様だったのか、あるいはただの夢だったのかは分からないけど、たまには神社に来るのも悪くないかなぁ、と私は思う。奇跡が起きないのは承知の上でね。
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