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明は意識を取り戻したとき、雪原の真ん中の丸太小屋は焼け落ちるところだった。父と母の倒れているはずの場所には血溜りだけが残っていた。
あの日は・・満月だった。
目が覚めた明の目に、頭の上の月があった。
それは、天空一杯に広がる・・ドクロの月!
錯覚は、一瞬だったが、しかし、その印象はあまりに強く、その悪夢で夜中に目の覚めることもままある。
「んだよ、あれは・・」
幸い、夜尿症のクセは明には無いが、それでも気の弱いガキなら、失禁するだろうなと思わせる、禍々しさが、あのドクロ月には在る。
そうやって、今日も、真夜中に目が覚めたわけで。
冷蔵庫の中のボトルの水を、ゴクリと飲む。
”まったく、オレは、何をやっているのだか”
真っ暗な部屋の中でそう思わざるをえない。試したことは無いが、とにかく自殺しても生き返ってしまうことは間違いない、そういう重病人なのだ、彼は。
一人だ。一人なのだ。
あの事件の後、アラスカで、明はおよそ半年後に狼たちとともに生きているところを発見された。
多少経緯を報告すれば、犬神明の家族がアラスカに作った丸太小屋は、この地域の野生狼の実態を知るための研究機関のさきがけであった。その異変が知れたのは、小屋と通信が取れなくなったことを不審に思った町の人がセスナで飛来してからのこと、遭難事故から一月してからのことだった。焼けた小屋。一家の死体は確認できなかったが、それも死体を狼が巣にもって帰ったからだろうと考えられた。
そこから推理が飛躍して、野生の狼に襲われた挙句に、失火して小屋が炎上。それで一家は全滅したと考えられた。そのために、ブリザードの時期が終わるのを待って、報復含みでこの一帯の狼の掃討作戦が計画された。
そこで、狼ハンターを自負する男達が招集され、そのハンティングの最中に、狼の群れと一緒に雪原を走り回る明が発見されたのである。
彼が、どのように厳冬のアラスカを狼の群れと一緒に生き延びることができたかは、謎だったが、とにかく、彼は生き延びたのだった。しかし幼児のつたない証言に従って、狼の群れによって救われたのは間違いないと学者達は考え、狼掃討作戦は、中止された。
そして、その地に新たに山本勝枝の出資を中心にして、野生狼の研究所が設立され、今日に至っている。
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