彼の白夜

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 弱い人間だからなおさらということもあるかもしれないが、仲間を持ち、きちんと付き合い獲物を狩ることができるというのは、狼にとっても大事な大人の証拠だったのである。確かに実力ある狼が一匹で動くことも、無いわけではないが、基本は”狼王”ロボという言葉が示すように、狼はコミュニティを作る存在なのである。 ”自分は、狼なのだから、異種族の毛無しザルとは付き合わない”と彼は嘯いたが、狼としても中途半端だという自己認識も、彼の心のどこかに厳然としてあった。  この東京でも、この部屋の外には一千万という人間がひしめいているはずなのに、なんだ、結局、一人なのだ、オレは、一人なのだ。  神戸・・おばの店の一号店にして世界的チェーンの日本料理店”幸”の始まりの場所から、逃げるように転校して、ここにやってきたのだった。神戸牛を使ったすき焼きが大人気で。今でこそ東京のほうに経営拠点を移しているが、神戸から海外に店を作り、その評判をうけて東京に逆輸入されたという経緯を持つ。  そこで、おばに注意されていたのだが、運悪く地回りのヤクザとトラブルになって、それをあしらったのだが、なにしろ神戸は日本最大のヤクザ組織の山野組の本家がある場所なのだ。ご多聞に漏れず、その三下ヤクザも、山野組の直系の組織の人間で。さかのぼって問題になったのだ。 ”なんで、そんな話になるのか。中学生相手に大人気ない”という話のはずだが、そういうとんでもない現象が起こるのが、この犬神明という少年の周囲の生活なのだ。  事態が錯綜し、そして加速拡大して収拾困難に成る。いつものことだというのは簡単だが、問題は神戸という場所だ。米で言うところの昔のシカゴのような暗黒街と考えるべきか。でもって・・  修羅場の挙句に、彼は自分の不死身体質の秘密がばれてしまった・・”不死身の獣人”・・もっとも、それは修羅場で興奮した男達が舞い上がって見た幻覚であるとして警察もその証言を取り合わなかったが。  アメリカほど銃器がいきわたっていない社会として知られた日本でなら、銃器で撃たれて死ぬことは無いだろうという配慮からおばが設定してくれた日本留学だったが、こと、ヤクザの跋扈するところは別だったということだ。
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