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先にある十字路まで慌てて走った。
もしかしたらその人の落とし物かもしれないから。
「落としましたよ」と声をかけてあげたら喜んでくれるかもしれないと思った。傘を差していないのも心配だったし、風邪を引かないようにボクの家でタオルを貸してあげることもできるって、そう思ったのに。
「おばあちゃん……」
その人は、まるでそれが白昼夢だったように見つけられないまま消えてしまった。
あれはきっと、祖母だった。
パーマをかけたようにクルクルしていた短い髪。猫背で少し丸くなっている背中。『今度は何のお菓子を買いに行こうか?』と笑っていて、ボクは最後に祖母と会った日に言ったのだ。イチゴ味のキャンディが良い、と――。
なかなか帰ってこないボクを心配して、母は傘を差してマンションの前に出て待っていた。
ボクは言われた通りお釣りをもらってお礼を言い、袋に入れてもらった食パンを持って帰ってきた。中を覗いた母がキャンディに気付いてボクに尋ねた時、まるで堰を切ったように涙が溢れて大声を上げて泣いてしまった。
祖母は亡くなってもなお、ボクを想ってくれていたのだ。雨の日なのに傘も差さずに、ボクに会いに来るほどに。
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