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子どものボクには刺激が強い光景だ。でも、父も母も敢えてそれを見せることで『死』というものがどんなものか、ボクに教えようとしたのだ。
一年前の夏から、祖母はボクの前からいなくなってしまった。
電話で話をすることも、手を繋いでお菓子を買いに行くことも、同じ布団に入るとボクが寝るまでずっと頭を撫でてくれることも、「タイちゃん」と名前を呼んでくれることも。
祖母はもう、どこにもいない。
「……?」
周りの音がボクの耳から全て消えて、足元から顔を上げた時だった。
距離でいえば家を三軒並べた先の道。
雨の中、傘を差さずに歩く背中の丸まった後ろ姿があった。
「……おばあちゃん?」
何故か勝手に口をついて言葉が出た。
どうしてそう思ったのだろうか、改めて思い出しても未だによく分からない。
ボクはまるで見えない糸に引かれるようにして、立ち止まっていた場所から歩きだした。スーパーへの道のりは、この先で合っている。けれど、上手く説明ができないけれど、この時のボクはスーパーへ行くのではなく前を歩く後ろ姿について行くように歩いていた。
そのまま、五分ほど歩いた時だった。
「?」
目の前に、大きな水溜まりができていた。
それは以前、ボクが両手とお尻を濡らして遊んでいた時のような大きな水溜まりで、よく見ると、その中心に赤とピンクで彩られたキャンディの袋が落ちていた。
「こんな所にどうして……?」
拾い上げたキャンディは、まるでついさっき買ってきたばかりのように一切汚れていなかった。
そればかりか、雨が降っているにも拘わらず表面は何も濡れていなくて、水溜まりに浸かっていた裏側だけに水滴が付いている。
「……! そうだ、さっきの人!」
ハッとして顔を上げたボクは、前を歩いているであろう後ろ姿を捉えるために目を大きく開いた。
けれど、その人は、もうどこにも歩いていなかった。
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