魔女姫は海に啼く

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「まあね。彼は強いから……昏倒させるのに時間がかかった」 「知り合いなの?」 「ミシア貴族の生き残りだよ。何度か話したことがある。……魔女姫の利用の危険性は説いておいたけど、また来るかもしれないな。何度だって追い返すけどね」  悪戯っ子のように笑って、サイは空を仰いだ。嫌になるぐらい晴れ渡った、青い空。曇天の多かったミシアとは全く違う空だ。 「さあ、船室に行こう。ファイロウまでは遠いよ」  指が、痛い。  狭い船室の中、ラナは寝台の上で汗をかいていた。呪力封じの指輪を着けた中指が、千切れるぐらい痛い。  ラナは何かに誘われるようにして、寝台から降りて船室を出た。そのまま、甲板へと上がる。  夜の海原は暗い。月光はあれど、水面はまるで闇そのもののようだ。  ――――。  正体不明の、鳴き声とも言える不思議な音が響いていた。  裸足で、ラナは歩く。まるで海に向かうかのように。  船の端に来て、水面を見下ろしたところで後ろから抱きすくめられた。 「……なに、危ないことしてるの」  吐息と共に囁かれて、ラナの体から呪縛が解けたように力が抜ける。 (私……何してたの?)  ざあ、ざあ、と響く波音の中、たしかに聞こえる不思議な音。人間の叫び声のような、泣き声のような。 「指輪のはまってる、指が痛くなって……導かれるようにして、ここに来てしまったの」 「……このあたりに、魔女姫が沈んでいるのかもしれないね。呪力が共鳴してるんだろう」  恐ろしくなって、腹のあたりに回されたサイの腕にそっと手を添える。彼に呪力がないせいだろうか、封じられてもなお共鳴した呪力が、徐々に鎮まって行く心地がした。  魔女姫と“呪力欠け”の相性がいいというのは、本当なのだろう。  目を閉じれば、浮かぶ気がした。見たこともないのに。  古代の装束に身を包んだ、真っ赤な髪をした女性は海底に横たわる。目を見開き、ないている。  哀しい……。悔しい……。
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