魔女姫は海に啼く

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 自分が辿るかもしれなかった運命を辿った、女性。あらためて、サイに感謝する。彼がいなければ、ラナはさらわれ利用されていたのだろうか。  この指輪は死ぬまで外れないはず。でも、ミシアの呪術に長けた人たちならこの指輪を外す方法を知っているのではないだろうか。だからこそ、利用を――。  ぐるぐるとした思考を見透かしたように、サイは「大丈夫」とラナの手を握った。彼の指が中指にはまった指輪を、なぞる。 「僕の知る限り、この指輪は外れない。でも、禁呪を使われたら内側から破られるかもしれないんだ」 「……!」 「だから、逃げないと。……そんなに心配しないで。ミシアの叛乱勢力はあまりまとまってないし、僕の言葉で考え直してくれるだろう」  サイは海風に遊ばれるラナの髪のひと房を手に取り、耳にかけてくれた。 「……私、何の役にも立たないのね」  ぽつり、言葉が零れる。魔女姫と持てはやされて、幼い日から驕っていたのかもしれない。いつかこの力が役に立つだろうと、漠然と思っていた。  誰か、迎えに来てくれるのではないかという夢想。それは自分が英雄になれるのではないかという、夢想と共にあった気がする。  だが、迎えに来てくれたサイは教えてくれた。ラナの力は災厄に似たものだと。 「生き延びた理由が、欲しかったのかもしれないわ」  父母を亡くし、婚約者も亡くしたと思った。老いた家臣を連れて、故国を出たわが身。  サイは苦く笑って、ラナの肩に手を置く。 「少なくとも、君が生きていてくれて僕は助かった」 「どうして?」  サイにとっては、お荷物ではないだろうか。 「君を探すという目標が、僕の生きる理由になってくれたから」  泣きそうになって、唇を噛みしめる。  罪悪感を覚えていたのは、サイも同じ。いや、彼はもっとかもしれない。戦場で生き残った、ミシア将軍の息子という身分。 「生きていてくれて、ありがとう」  心地いい声が耳朶を打ち、ラナは涙を流して微笑んだ。  そのまま抱き寄せられて、目を閉じる。どのくらい、そうしていただろう。涙はいつの間にか止まっていた。  おや、とサイが向こうの空を見たのでラナも振り向いた。水平線の彼方に、金色の光が僅かに滲んでいる。空が段々と白み始める。  もうすぐ、夜が明ける。
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