魔女姫は海に啼く

2/13
前へ
/13ページ
次へ
 あれはまだ幼き日の思い出。  ミシアは呪術の国だと言われる。ただし王侯貴族しか呪術は使えない。  ラナは王の弟の一人娘だった。  内在呪力の高さから“魔女姫”の称号を賜ったラナはまだ、七歳だった。 「はじめまして」  初めて引き合わされた、婚約者となる少年は優しく笑いかけてくれた。  端正な面立ち。赤みを帯びた金髪は真っすぐで、肩を過ぎるところまでのばされている。目は、灰色がかった緑だった。 「はじめ、まして」  ラナは言葉を詰まらせ、少年が屈んで差し出した手を取る。  傍らにいたラナの両親は、くすくすと笑う。 「ラナ。彼は将軍の息子だ。呪術は使えないのが、残念だが……だからこそお前と結婚させるのだよ」 「呪術が……?」  ミシアの王族や貴族であっても、まれに呪術が使えない者も誕生する。彼らは“呪力欠け”と呼ばれた。 (よくわからないけど……)  でも、目の前で微笑む優しげな少年のことが一目で気に入ったラナは、「まあいいか」と頷く。 「どうだい? 彼が婚約者で、いいかい?」  父に問われて、ラナは微笑む。 「いいわ」  さぞ生意気に映っただろう。でも、少年は嬉しそうに笑ってくれた。  その一年後に、ミシア王国はシレン王国に攻め込まれ、激戦の果てにシレンの領土に下ってしまった。  戦争に参加していた貴族や王族の半数は戦争で命を落とすか処刑の憂き目にあい、残された者たちはシレンの臣下に下ることとなった。  まだ十四でありながら、戦争に参加したラナの婚約者――サイも、命を落としたという。戦いの折に亡くなったのか、処刑されたのかはわからない。  ラナは内在呪力の高さのため、早くにシレン国に捕らわれた。  殺されなかったのは、魔女姫と呼ばれるほど呪力の高い者を殺すと、地が爛れるなどの災害をもたらすという伝承があったためだ。シレン王はこれを恐れ、ラナに呪術封じの指輪をはめ、国外追放とした。  父も母も亡くしたラナは、爺やと婆やの二人に伴われて、住み慣れた国を離れるしかなかった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加