魔女姫は海に啼く

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 昔のことを思い出しながら、ラナは港でぼうっとして紺碧の海を眺めていた。  気持ちよさそうに空を飛ぶカモメ。忙しそうに立ち働く人々。ひしめき合う船。雑多な光景だが、ラナの視線は海にのみ注がれている。 (ああ、仕事に行かないと)  ラナは職場である酒場へと、のろのろ足を向けた。  ふと、手をかざす。両手の中指に嵌まった指輪は、銀でありながらどこか黒々とした輝きを放っている。  呪力封じの指輪――。これを外すことは、誰にも敵わない。ラナが死ぬまで外れないはずだ。 (私がミシアの王族だったって……誰も、思わないんでしょうね)  ラナはもう二度と、故郷の土は踏めない。  ミシアを出て、ミシアの東――隣国のディオスに渡ってから、この海辺の小国――ル・レドにやって来た。  ここに来てもう、七年が経った。付き添ってくれた爺やと婆やも、元々高齢だったこともあり、亡くなってしまった。  ラナは今や、ル・レドで暮らし、働くただの少女に過ぎなかった。  昼は食堂、夜は盛り場となるそこは、ラナが数年前から勤める職場だった。  がやがやと騒がしい屋内で、ラナは忙しく立ち働く。  昼から酒を飲む男の多いこと、と呆れてしまう。  港町だからだろう。客は船乗りが多かった。  粗野な男が多い中、ラナはふと端っこの方に座る男を目に留めた。  よく日焼けした肌に、黒い髪。典型的なこの国の――ル・レド人の容姿ではある。だが少し、他の者と雰囲気が違っていた。  注文を聞くべく、ラナは彼に近付いた。 「あの――」  すると彼は目を細め、ラナの手を掴んだ。 「やっと、見つけた」
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