魔女姫は海に啼く

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 戸惑い、ラナは身を引いた。 「どなた、ですか……」 「忘れちゃったかな」  そうして、目元を和ませると、面影が見えた。彼の――。 「……サイ」  嘘だ。どうして彼が、ここに。彼は、戦争で死んだはず。  混乱しながらもラナは、「少し待ってて!」と言ってから、カウンターに向かった。  不愛想な店主に、「少し早めに休憩を取らせてください!」と頼むと、彼は小さく頷いた。  ラナはそうして、例の客の元に帰った。  ラナはサイを外に連れ出した。  近くにあった小さな店に入って、二人は向き合って座る。 「……あなたは、亡くなったんじゃなかったの?」 「戦争で、怪我をして倒れていたんだけど――死んだと判断されて、放置されていたらしい。死体の下敷きになっていたみたいでね……。目覚めた後、僕はしばらくさまよった。そしたら、運よく通りがかった人に助けられたんだよ」 「そんな……」 「怪我の療養に大分かかったんだ。それで、ようやく動けるようになって、家に帰った。……もう誰もいなかったけどね。それで、友人の家を訪れたんだ。彼の家は、無事だったみたいで――僕を突き出すこともなく、王族や貴族がどうなったか教えてくれたよ」  サイは苦い表情をして、うつむいた。  サイの父親は将軍だった。当然、彼は戦争で命を落としている。その家族は処刑されたという……。 「とにかく逃げろと言われて、金をもらって――僕はしばらく、諸国を回った。幸い、後遺症は残らなかったからね。傭兵として、生きて来たんだよ」 「傭兵……」  彼がそんな荒っぽい生活をしていたとは。 「君が国外追放になったと知ったんだけど、どこに行ったかは誰も知らなくて――。僕は旅をしながら、君の行方を捜していたんだ。情報屋とかも、使ったりしてね」  やっと、見つけた――彼の言葉を思い出す。  ずっと捜してくれていたのだと思うと、じわりと嬉しさが胸に滲んだ。 「ありがとう……。私も、あなたに会いたかった」 「本当? 嬉しいな」  彼は以前と変わらぬ笑みを浮かべた。伸ばされた彼の手が、軽くラナの髪に触れる。
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