魔女姫は海に啼く

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「きれいになったね」  突如褒められて、かあっと頬が熱くなる。  潮風のせいで赤い髪はぱさついているし、肌も荒れ気味だ。くわえて、化粧っけのない顔。  きっと、お世辞なのだと思う。それでも嬉しく、面はゆい。そんな自分が、恥ずかしい。  まじまじと、サイを見つめる。彼は以前のような華奢な少年ではなく、精悍な若者に育っていた。だけど、優しそうな目元は相変わらずで、貴公子らしさは失っていない。  そうして、彼の容姿の変化に改めて首を傾げる。 「どうして、その髪――黒いの? あなた、金髪だったわよね?」 「ああ……。これ、染めたんだよ。あの色、目立つから」  たしかに――ただの金髪なら珍しくはないが、赤みを帯びた金髪は目立つ部類に入るだろう、とラナは平静に考える。 「沿岸地方は、黒髪が多いし。出身地を探られて、僕が将軍の息子だとわかれば……処分されるかもしれないし」  サイは疲れたように、息を吐いた。  きっと、荒んだ生活を送って来たのだろう。前の彼にはなかった、どこか傷んだ空気をまとっていた。 「君は、どうやって暮らしてたの?」  問われて、ラナはミシアを出てからのことを語った。 「……そうか。君も、今はひとりなんだね」  うん、と涙を堪えて頷いた。父母も処刑されてしまったし、付き添ってくれた人たちも死んでしまった。  何度も、想像したことがあった。死んだはずの婚約者が実は生きていて、という夢想。  本当にこれは、夢ではないのか。今もまだ、信じられないでいる。 「ル・レドにいたとは、盲点だったな。僕は隣国のメルセに、長いこといたんだよ」 「そうなの?」  メルセも沿岸地方の国で、ル・レドの北に位置する。ル・レドより二倍ほど国土が広いはずだ。 「うん。メルセは内乱が多いから、傭兵の需要が高くてね。メルセの情報屋に、この町に君らしき女の子がいるって、教えてもらったんだ。時間かかったけど、頼んでおいてよかった」  ラナがひなびた港町にいるとは、思わなかったのだろう。  ラナもまさか、平民に混じって暮らすとは思わなかった。だが、シレン王の不興を買うことを畏れたル・レドの大公は、ラナの保護を拒んだのだ。
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