魔女姫は海に啼く

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『ラナ様を見捨てるというのですか!』  爺やの、血を吐くような叫びを覚えている。  それに気圧されたのか、大公は少しの支度金をラナに与えてくれた。王族・貴族として遇しはしないが、市井に混じって暮らすことは止めない――という、言葉を残して。また彼は、母国と接触することは許さぬ、なるべく痕跡も残さぬように暮らせ、と付け加えた。  ル・レド大公にとって、ラナは厄介者以外の何者でもなかったのだろう。たしかに、敗戦国の王族の血を引く娘なんて、扱いに困るはずだ。  そうして、ラナと二人はこの町に来た。平民に混じり、暮らした。  サイがなかなかラナの情報を掴めなかった背景には、大公が情報を遮断していた可能性もあるだろう。 「実はね――ミシアで、不穏な動きがあるらしい」 「不穏な動き?」 「叛乱を起こそうって動き。独立どころか、シレン王国を反対に蹂躙しようって計画だ」 「そんなこと、できるの?」  ミシアとシレンの軍事力は大きく違う。まして、今やミシアはシレン領となり、牙を抜かれた状態だ。 「うーん。そこで、魔女姫が鍵になるんだ」 「魔女姫(わたし)……?」 「そう。君を利用すれば、何とかなるんじゃないかって思う人たちがいるみたいでね」 「でも――この指輪がある限り、無理でしょう?」 「そうだね。だけど、強引な手段に出るかもしれない。君がさらわれてなくてよかった。僕と一緒に、他のところに行こう。ここは突き止められるかもしれない」 「え、ええ」  嬉しい申し出なのに、サイが真剣な顔をしているのと不穏な話のせいで、素直に喜べない。 「でも――私が役に立てるなら、協力すべきじゃないかしら」 「……ああそうか、君は知らないんだった」 「え?」 「何でもない。……そろそろ休憩時間も終わりかな。――君、今日は早退できる? というより、できれば今日付けで辞めてほしいんだけど」 「え、えええ」  強引なことを言われて、ラナは戸惑った。それだけ、差し迫っているのか。 「僕も一緒に行って、話をしてあげるから。行こう」
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