魔女姫は海に啼く

8/13
前へ
/13ページ
次へ
「私の部屋以外には、寝台がないの。二人が死んじゃった時に、処分してもらったから」 「そうか……。でも、それなら君が寝台を使うといいよ。僕は寝台なしでも慣れてるからね。野宿もよくしたし」 「でも」 「いいから、いいから」  押し切られる形で、話がまとまってしまう。 「寝支度をする前に、少し話そうか」  サイに提案されて、ラナは頷いた。  簡素な居間には、大きな卓と三人分の椅子がある。二人は椅子に腰を下ろし、向かい合った。 「君は、“魔女姫”についてあまり知らなかったんだよね」 「……ええ」  幼かったからか、魔女姫と持てはやされただけで、自分の力について説明してくれた大人はいなかったと記憶している。 「魔女姫は、その呪力の高さから禁呪とされた術が使える」  サイが語った話は、こうだった。  魔女姫の力を利用する禁呪というのは、かつてミシアの王族が契約した精霊の力を解放するものだという。 「解放というより、ほぼ暴走だね。強力だけど、被害が大きすぎるんだよね。シレン国民もミシア国民も巻き込む、未曾有の災厄が起こってしまうだろう。それに、禁呪を放つと代償として君の命は奪われる」  サイの説明に、ラナはぎょっとした。 「本当に?」 「ああ。……というより、死なせないことには禁呪を止められないんだ。……初代魔女姫が、初代国王の妹だってことは知ってる?」  その質問には、頷きで答えた。 「初代国王は、襲い来る異民族を倒すために禁呪を使わせた。妹姫は炎の精霊の力を解放し、敵と共に大地と森を焼いた。あまりに激しい、災厄とも呼べる術に人々は怯えた。被害は、他国にも及びそうになった。術は止まらなかった。彼女から炎が溢れ続けたそうだよ。……王は妹を湖に投げ込んだが、それでも鎮まらずに湖が蒸発したそうだ」  凄惨な話に、ラナの体は強張った。 「そこで王の弟は呪術を使い、魔女姫を移動させた。……さすがに海なら鎮まるだろうという、判断のもと。魔女姫は、この近辺の海に沈められたそうだよ。そうして、ようやく暴走が止まったと」  ひやりと、背中が冷たくなる。かつて魔女姫が沈められた海が近いこの国に、自分がやって来たのは果たして偶然だったのだろうか。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加