生命のゼンマイ

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 実は思い当たる節がないわけではありません。と申しますのは、先のバーで女の子の気を惹こうと手品の真似事に使っていたのでした。少し大きめで年代物っぽい巻き鍵ですので間近で見せて面白がらせるにはちょうどよかったのでしょうが、だからといって、そんな大切なものを忘れてくるなんて許されることではありません。  死神さまはしばらく思案致します。死神組合と申しあげるのでしょうか、世界各地の死神さまたちの集う寄り合いがありまして、鍵紛失はそこの上層部に報告をあげねばならない事案なのです。ところが日本支部のトップは、かの国生みにも関与された大女神さま、ひとたび憤怒の炎に取り付かれると、かつての夫であろうとも黄泉比良坂(よもつひらさか)まで追いかけて殺そうとする執念をみせた方です。死神さまもこの方の逆鱗に触れることはできませんので、発覚する前に自力での回収を考えることにしました。
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