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マンションの外に出た。大雅がポケットからタブレットを取り出し、無言で手渡す。私は三粒手のひらに出して、大雅に返す。いつも通りのやりとりは、いつもなら何とも思わないけれど、今日はなぜだか鼻にツンと来た。涙がこみ上げて来そうになって、慌てて天を仰ぐ。
「大雅も早いね」
「ああ」
理由は言わなかった。私も聞かない。いつものことだ。昨日のLINEでのやりとりがまるでなかったことのように、普段と変わらない時間が流れている。きっとこれからも、私たちはこんな風に過ごしていくのかもしれない。共有する時間の向こうに、お互いの世界が広がっている。これまでも、これからも。
私が大雅に抱いている思いも、このまま変わらないだろうと思った。それが、受け入れられることのないものだとしても。大雅が誰を好きだとしても、私が大雅を好きであることは、揺るぎないものだから。
「ほら、電車に遅れるぞ、急げ」
大雅が走り出す。
「待ってよお」
私はしかめっ面で、大雅の背中を追った。
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