あなたが誰を好きだとしても

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「クラス別れたぐらいでこうも顔を合わすことがなくなっちゃうんだね」  テストの話もあっという間に喋り尽くしてしまっていた。間が出来るのが嫌で、次の話題をなんとかひねり出す。 「まあな。同じマンションでも知らない人もいるし、そんなもんだろ」  大雅が、ポケットからミントのタブレットを取り出して手渡す。私はいつものように無言で三粒ほど振り出して、大雅に返す。食べる? とか、ありがとう、とか要らない、私たちの空間が相変わらず健在であることにほっとして、嬉しくもあった。  今まで、そんな感情が浮かんだことなんてなかった。だけどこの四月で、当たり前だった時間が当たり前じゃなくなって、徐々に違和感が満ちてきていることに気づいていた。歯が抜けてスースーするような、伸ばしていた爪が突然折れて指先の感覚が急に敏感になったような。実際、大雅と過ごしてきた時間が大きすぎて、私を形成する一部になっていたのかもしれない。 「こんなにも大雅の顔を見ないことなんて今までなかったから、変な感じだったけどな」  以前まではこうして、左側からの横顔を見るのもお決まりの眺めだったのに。 「そうか?」  大雅は目も合わせずに、軽く答える。  会えなくなって寂しいって思っていたのは、私だけだったのかもしれない。
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