あなたが誰を好きだとしても

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 エレベーターに乗り、いつものように大雅が行き先の「8」のボタンを押した。私も大雅も黙ったまま、ボタンが移って行くのを見守っている。どうせすぐ到着するのだからもう会話をする必要もなかったけど、いつもと違う重苦しい空気が広がっていることをなんとなく肌で感じ取っていた。  ドアが開いた。じゃあね、とお決まりの文句をつぶやき、私は右手、大雅は左手へと進み、それぞれの家に帰って行く。今日もそうするつもりだった。でも違った。大雅が「あのさ」と切り出したからだ。 「後で、LINE送るわ」  もちろん、お互いの連絡先は知っているけど、今まで殆ど使ったことがなかった。だって、家がこんなに近いんだから、文章を打つくらいなら直接言って話した方が早いから。それに、いつもの会話が文字になるだけでなんだか気恥ずかしいし。 「何? 用なら今話せばいいじゃん」  だいたい、他の友達のように、たわいもない会話を交わす間柄でもない。わざわざLINEを送るだなんて宣言されて、なんか変な感じだった。 「いや、今は無理。忙しかったら、手が空いた時読んでくれればいいから」  今日の大雅は、何か変だ。会った時も、久しぶりだっていうのになんだか上の空っていう感じだったし。 「何それ。なんか、気持ち悪い」  思わず、かわいげのない言葉が口をついて出た。それでも、大雅は表情を崩さなかった。 「話がある」  今日、初めて大雅と目が合った。自分でも驚くぐらいに、大きく心臓が跳ねた。なぜだか、すぐにはわからなかった。
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