あなたが誰を好きだとしても

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 幼なじみとして今まで接してきていた時間を振り返ると、大雅にこれだけ気を遣ったのはたぶん初めてのことだ。ジーパンのチャックしまってないよとか、髪型ヘンだよとか、どんなことでも言えていたのに。 『そのまま、胸の中で思い続けていくつもりもないんでしょ? 言っちゃえば、楽になるよ』  急に湧き出て来た乙女心にオブラートをかぶせられて、私が言えるのはせいぜいこのくらいの煽りでしかなかった。 『そういう風に思ったことない、って否定されたらって思ったらちょっと怖いんだよな。なさけねー』 『なんか、大雅がそんなに後ろ向きなのって、ヘンなのー。いっつも私にやれやれってはやしたてるくせに』  ちょっと煽りすぎかな、と思ったけれど、大雅はすぐに『そうだよな』と返した。 『わかった、言ってみる。言わなきゃ、伝わらないもんな』  このやりとりで初めて、大雅がスタンプを送って来た。『サンキュ』と言いながら敬礼をしたキャラクターだった。それを見た瞬間、自分の中に疑問符が飛び交った。何かがわずかにずれたような感触を覚えたからだ。その答えは、次の大雅の返信ですぐにわかった。 『明日、伝える。今から軽く、前振りの雑談でもLINEしてみるわ』  だって、私とはもうすでにLINEをしているわけで。  これから、「前振りでの雑談をしてみる」と言う相手が私ではないことは明らかだ。 「オレが由羽のことを好き? んなわけあるかっ」と、鉄のフライパンで思いっきり頭を殴られたような気がして、頭がクラクラする。言葉が出てこなくて、切り返すことができずにもたもたしているうちに、大雅から最後のメッセージが送られていた。 『わかってると思うけど誰にも言うなよ。由羽にしかこんなこと言えないんだから』
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