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ふと空を見上げた男は、数隻の船が空中を漂い、腕を組んだ浮揚師たちが一心に祈っているのを目に留めた。それらの船には舷側から高々と積み上げられた荷物や、数十人におよぶ船客たちが乗り込んでいるのが認められた。
むろん、魔法のちからでこれらの船は空中に浮いているのだ。船を浮かせている浮揚の魔法を習得した魔法師の資格は老若男女にかかわらない。実際、目の前を飛行している船を浮かせているのは、十歳以下と思われる女の子だった。船には数十人の客が乗り込み、船端から眼下の町の様子を目を瞠って見おろしている。
客の服装から、かれらはいわゆるおのぼりさんであり、これから郷里に帰ってこの体験を口角泡を飛ばし吹聴するのだろう。
この町は街道の交叉点といっていい位置にあり、年間数十組のキャラバンが立ち寄る交易都市である。繁盛もそのせいで、またその繁華が魔王の軍勢にとって格好の標的でもある。
過去、数度魔王の軍勢はこの町を攻撃し、そのたびに町は痛烈な代償を払い守り抜いてきた。
数度の攻撃で、町の人口は半減し、町を守る護衛兵の大半も鬼籍にはいった。そのたびに町はあらたな護衛兵を雇い入れ、評議会は軍備費の調達に苦慮してきた。
その反省から、ザザンの町の評議会は魔法ギルドに応援を要請したのである。町の防備を完璧にするために。
男の目が町の大通りに面したある建物の紋章にとまった。
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