暗闇

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「では、私はどうすれば良いのだろうか?」 私は少し申し訳ない気持ちになって、彼に伺いを立てる。家族で外食に出掛けて、自分の注文した料理だけ中々出てこない時の、あの謂れの無い申し訳なさを懐かしく思い出した。 「うむ。そのような場合、死ぬまでの最後の7日間をやり直して貰うことになっている。今度は必ずこちら側で死の理由を準備しておく。そうすれば、お前の死は、通常通り先に理由が与えられて、そして死ぬことになる。お前はその7日間で死の理由を考えれば良い。場合によっては地獄ではなく、天国に行けることになるかも知れない。」 自らの不手際を天国に行ける可能性をチラつかせることで無かったことにしようとするような言い方だ。 「それは少しズルいのではないでしょうか。その場合、先に私の死があって、そこに理由を後付けするようなことでしょう?死に先立って理由が与えられるという原理に反します。」 私は敢えて反論してみる。生前の7日間をやり直すことが少し面倒にも思えたし、死の世界のシステムをなるべく理解しておいた方が良いように思えたからだ。 「因果とはもとよりそのようなものだよ。人間も言うだろう?卵が先か鶏が先にかと。」 彼がそう言うと、地獄の門を照らしていた光が弱くなっていく。辺りは再び暗闇に包まれていった。完全に視界が真っ暗になると、私の意識も闇へと溶けていった。
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