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 傍にいる兵の肩を叩いて北側を指さすと、音をたてずに移動して様子を見て来いと命じる。これまた形式通りではあるが、今回は適切だ。  悪感情を勝手に抱いていた俺の短慮だ、軍曹はしっかりとやっている! 先任には学ぶべきところが必ずあるな。  木陰に隠れて偵察が二人で様子を窺っている。姿勢を低くして少し先の拓けた場所を見ると、そこには十数軒の民家があった。  異様なのは広場に住民が集められて、銃を持った奴らが囲んでいること。野盗ではない、ロシア軍の軍服を身に着けた官賊の類だ。  悲鳴の主は家に隠れていただろう若い女性。 「大人しくしやがれ!」  くすんだ茶色の髪の毛を鷲掴みにして女性を無理矢理に引きずって来た。止めてくれと父親らしい中年男性が立ち上がると、兵士に小銃の柄で殴られて地面に転がる。  わざわざウズベクにやって来て乱暴狼藉とはふざけやがって! 「軍曹、あれを止めるぞ」 「ニェット。ロシア軍に逆らってはいけません」  少し驚いてしまった。初めて軍曹が命令に反対した。相手がロシア軍だから、何が起きていようと理由は関係ないのだろう。 「もう一度言うぞ、軍曹。ウズベク人を保護する、あれを止めるぞ!」 「ダニェット」  迷いながらも仕方なく従った、部下を二人だけ支援位置に残して茂みから姿を現した。  当然ロシア兵や住民からの注目を受ける。出て来たのがウズベキスタン兵と解ると、ロシア兵は冷笑を浮かべた。
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