1

1/10
114人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

1

◇  ソヴィエト連邦が崩壊して間もないころ、かつての版図であり、今は独立している国々の一つウズベキスタンに戻ってきた。混乱直後のことで、未だにロシア軍があちこちに駐留したまま。  かくいう自分も軍服はロシア軍の物とほぼ同じで、腕に刺繍された国旗デザインが違うだけで、他人からはロシア軍人に見えているかもしれない。  連邦各地に派遣されていたウズベキスタン人が国元へと順次帰還すると、元の階級のまま軍籍を移す。帰国してすぐに地元の軍司令部へ出頭すると、その場で少尉の階級章を渡され、出身地の警備隊に赴任するように命令された。  下士官以下の者と違い、将校が出身地で勤務をすると地元との癒着や、様々な不都合が起こりやすい。だが慢性的な人員不足を解決するのを優先したらしい。  新任者を別として、軍の人事は滞ってしまっていた。もう数年間全員の昇進がストップしている有様なのだ。それだけならまだしも、給与の遅配も起きていて士気の低下が著しい。  だからと犯罪が起こらない日は無く、国防に終わりもない。誰かがやらねば現実は更に困窮する、燻っていない新任者が気を吐くのは何と無く理解出来た。 「軍曹、警備スケジュールの打ち合わせをするぞ」 「ダー」  五十歳前後の者が二十歳そこそこの若者へ、自身の息子より年下だろう上官にハイと返事をする。永年の習慣は感覚を麻痺させる、地位が一つでも上ならば、相手が若年者だろうが迷いなく服従する。  一長一短あったもので、上官が不正を働いても黙ってそれに従うのだけは困りものだ。  俺の警備隊の受け持ちは街外れの森林地帯。なんの手入れもされていない森林で、伐採して資源に活用する予定も聞かない。何せ伐れば運ぶための道が必要になる、まずはその道を延ばすところから始めなければならないのだ。 「警邏班定時巡回に出ます」 「うむ」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!