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「僕は確かに君が大好きだ。愛している。だが、君は何もしてくれなかった。僕が悪いことをしていると知っていても咎めなかった。夜の営みだって君は嫌がったし、愛しているとさえ言ってくれなかった。けど彼らは違う。共に酒杯を掲げ、共に戦う仲間だ。彼らは私のことが大事だということを行動で示してくれる。」
私は彼に言われて初めて気づいた。
私は彼に何もしていないのだ。
愛していたって言わなければわからない。行動しなければわからないし、何もしていないのに何かしてほしいというのは傲慢に過ぎる、ということを。
そして私だけは彼らとは別に連れて行かれた。
留置所に行った後、裁判をして無期懲役か死刑だろう。
そうして私は今留置所にいる。
支給された地味な作業服に身を包み、ここに半年はいる。
あの日の言葉が、彼の顔が脳裏にこびりついて取れない。
やり直したくてもできない。しかし、彼が今何をしているのか、何を考えているのか知りたかった。
裏切られてなお、彼が好きだった。
彼のおちゃらけた喋り方、息遣い、茶色がかったくせ毛の髪、黒く真っ直ぐ見つめてくれるような瞳、私に合わせるような歩き方、時折見せる力強い一面。
彼が隣にいる様子が鮮明に思い浮かぶ。
私は彼の大きな背中に背中を合わせて、彼は狡いような甘い言葉を投げかける。
彼に触れたいのだ。
彼に会いに行く、そう決めた。
留置所を出るのはそこまで難しくなかった。
彼の一団の情報を調べて、十日が過ぎたが居場所を特定することができた。
私は思った。今まで何もしてあげられなかったのなら、これからたくさんしてあげればいい、と。
私は走った。十分な運動ができず筋力が低下した足を必死に動かし、ただ彼を想って走った。
しかし、その場に到着した私が見たものは想像とは違っていた。
壁に縛り付けられ、口から血を吐き出しながらボロ雑巾のように薄汚れた彼がいた。
彼は何者かによって暴行を受けていたのだ。
私は彼の名前を叫んだ。走って近寄る。
「どうしたの?!なんで…なんでこんな目に?!」
「借金をしたんだ。もう直ぐ奴がまた来るんじゃないか?」
彼は乾いた笑いを口から漏らす。
私はどうしたらいいか必死に考えた。
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