序章

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序章

 友人が自殺しようとしているところを見ていた。  冬。しんと冷える静かな夜だ。風は冷たく、二人の間を通り抜ける。この気温では水の中はさぞ凍えることだろう。  橋の欄干に座って足をぶらぶらさせる友人の後ろ姿を、少女は黙って見つめることしかできない。  風に圧されただけで倒れてしまいそうなほど華奢な後ろ姿だった。白すぎるほど白くて、透き通っているみたいで。純粋に、美しかったのだ。  その友人が、白い肩越しに振り返った。 「――止めないの?」  唇がゆっくり弧を描く。  少女はぎゅっと拳を握りしめた。足の裏は地面にぴったりくっついて、離れない。開いた手の指先が細かく震えているのがわかった。  友人は少女の反応に少しだけ眉を下げると、また正面を向いて後ろに大きくのけぞる。バランスが崩れて滑り落ちそうになっても、少女は友人を支ええることはしなかった。 「きれいな夜」顔を上に向けたまま、歌うように言う。  確かにきれいな夜だ。研ぎ澄まされた冬の空気、草と土のにおい。夜空に輝く星々はみな息を潜めてこちらを窺っている。 「私はね、あなたと一緒に死にたいの。あーちゃん」  友人は一人嬉しそうな顔でクスクス笑った。少女は返事をしなかった。  じっと上を見つめる。この満天の星空を、目に焼き付ける。一生、忘れないように。 「――」  彼女がそう願うなら、私は。 ――私の、願いは。
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