序章

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* * *  ふと目を向けた先に、鳥が羽を休めていました。雑巾みたいな色をした、不細工な鳥です。鳥は目をギョロギョロさせながら地面を突っついて、私が見ていることに気がつくときまり悪そうに飛び去っていってしまいました。  飛んで行った方を見上げると、小さな姿は太陽の白を背景に一瞬きらりと光って、私はまぶしさに目を細めました。  夏に差し掛かってまもなくの、ある日の早朝。風が気持ちよくて実際よりずいぶん涼しく感じる晴天。  立ち止まった私の横を自転車に乗った学生がすり抜けていきました。道の真ん中を猫が悠々と闊歩して、犬の散歩をするおじいさんがすれ違いざま私に挨拶してきます。私は少し戸惑って、ぎこちなく会釈を返しました。  この町はいつもそうです。のんびり屋で楽天的で、いつもひどくゆっくりとした時間が流れる、そんな場所。  だから私も私の同居人もこの町を気に入っているのでしょう。たまにじれったくなるときもあるけれど、なんだか毒気が抜かれるような気がするのです。  そろそろ朝ご飯の時間でしょうか、どこからか香ばしいコーヒーの香りが漂ってきました。家で待っているはずの手料理を思い出すと自然とお腹が鳴ります。 「そろそろ帰ろうかな」  呟いて、私は来た道を引き返しました。
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