序章

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「俺の知らないところで、勝手に死んだりするなよ。死にたがり」  私は一瞬きょとんとして、すぐに彼が私の言葉の裏に気づいていたのだとわかりました。だから私も目を逸らさずに笑顔で応えます。 「善処します。知りたがり君」  黄昏はふんと鼻を鳴らして、部屋の向こうに引っ込んでしまいました。ばたん、と音を立てて扉が閉まります。  一人黙々と食事を進め、サンドウィッチとグリーンサラダを平らげた私はソファーに場所を移して座ったまま伸びをします。ぽきぽきと気持ちよく骨が鳴りました。  コーヒーを時間をかけて飲み干したあと棚の上に立てかけられている読みかけの本を手に取ります。出しっぱなしにしていたはずですが、うちの掃除夫はなかなかどうして几帳面です。  本を膝の上で開いて、ふと外に目をやりました。蝉がうるさく鳴いていて、濃い影はぐったり地面に突っ伏して、空は間抜けなくらい青くて。  どんなときでも、上を見れば空は呑気にきれいなままなのです。  同時に私は考えます。 ――今日は、何をしようかな。  皮肉屋でひきこもりで、でも案外世話焼きな同居人の言う通り、勝手に死ぬのはやめてあげよう。そう思いました。
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