死にたがりと知りたがり

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死にたがりと知りたがり

* * *  そっと目を閉じると、濃い緑の匂いがした。  光に慣れたまぶたの裏がじんじん疼いて、緩慢な脳が刺激される。ゆっくりと思考が回りだす。そうして、大して意味もない記憶が頭の中を過り始めた。走馬灯、というものだろうか。  自己嫌悪ばかりだった、ふたりぼっちの暗い過去。少女はいよいよ惨めになって目を開けた。  空は初夏の午後にふさわしい雲一つない青色。足下の川は日光を照り返して水銀のように輝いている。  少女はその川をまたぐ橋の欄干に座っている。熱を吸い込んだコンクリートは手のひらを焦がしそうなくらい熱かった。  ここから少し離れたところに大きな橋が開通してからというもの、この小さな橋を利用する人は滅多にいなくなった。埃と水気にまみれたこの場所は、少女にとって特別だ。  少女は今からこの場所で死ぬつもりだった。手すりから手を放し、少し前に体重をかけるだけで、どぼん。流れは速くないが深いところでは底に足が着かないだろう。     
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