死にたがりと知りたがり

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 もう一度目を閉じて、息を吸って吐く。私は死んで当然の人間なんだと、自分に言い聞かせる。このまま生きていたって仕方ない、苦しくて惨めなだけだ。ずっと幽霊みたいに暗闇の隅でうずくまっていた。死んだとしても神様にだって気づいてもらえないだろう。  少女は、もう一度息を整えた。夏をいっぱいに凝縮したような匂いが胸に満ちていくと、不意に体が軽くなった。背中に羽でも生えたみたいに。重力に従って前のめりに倒れ込み、そして―― 「おい」  知らない声がした。  同時に、傾いていた体ががくんと止まる。腕に知らない誰かの指が侵入してきて、強く内側へ引っ張られている。  少女は驚いてをそれを見た。生白く、深爪気味の、不健康そうな五指を辿り、次第に視線を上に向けていく。  そこには、少年がいた。不自然に白い肌に大粒の汗を浮かべ、見覚えのある制服を着た少年。口は怒ったように歪んでいるが、目の下あたりまで伸ばされた前髪に隠れて表情は窺えない。  その知らない少年は少女の腕を強く掴んだまま自分の方に無理やり引っ張った。引っ張られた方はバランスを崩して今度は後ろに倒れ込み、すんでのところで踏みとどまる。  少女は焦って手すりにしがみつき、文句を言う。 「ちょっと……! 何するの」 「あんた、死ぬのか?」 「え?」 「ここから飛び降りようとしてただろ」  少年は低い声で淡々と言った。そして少女が何かを答える前に、呆れたように息を吐く。     
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