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「何でそうやって、自分から死のうとするんだろうね。軽々しく命を捨てる奴の気が知れねぇよ」
「……だから? 君には関係ないでしょう」
「関係ないかどうかは、俺が決める」
いいから降りてこい、と少年は命じた。それに従うのも癪だが、抵抗するのも面倒だと、彼女は警戒しつつ橋に足を下ろす。
「それで、私に何の用かな?」
少女は彼を睨んだ。
「そういうわけじゃない」
少年も負けじと冷たく返す。
「じゃあどういうわけよ」
「分かるだろ」
「分からないから聞いているの」
しばらくそれが続いた。少女は意地を張り続けたし、少年もまた前髪に隠れた目で器用に睨みつける。お互い一歩も譲らないまま、遠くで車が通り過ぎていく音を四台分ほど聞き流した。
少女は急に面倒になった。
「やめようか、こういうの」
急に弛んだ緊張の糸に、少年は不意を打たれて「あ……うん?」と間抜けな声を上げる。
「ありがた迷惑なことに、君は私を助けてくれたんだね。だったらお礼をしなきゃ」
皮肉交じりに笑うと、少年は首を振った。
「礼なんていらない。いらないから、もうあんな馬鹿なことするな」
「あ、そう。ご忠告ありがとう」
そうしてくるりと踵を返すと、早足でその場を立ち去ろうとする。しかし、少年はそれを呼び止めた。
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