ムロくんの出した文明の利器

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 ふだんコンピュータやスマホなど文明の最先端の利器にふれていないぼくらにとって、ムロくんはそれこそ宇宙人がなにやら操作しているような感覚だった。 息をのみつつ、とりあえずムロくんが一番信じられると期待している記述を読むのをそっと見守ったのだった。 「あ、えーと、じゃあ読むぞ。 “あるところに、めずらしい風習を持った村があるのだという。 その村は古来より” え、なんだって。 ああ、ここらへんはほかの引用で出ていたって。 わかった、違うところを読むからな。 えーと、 “カミシマイマツリの実態調査を始めたばかりの頃は、村の者たちにいくら聞いても、私に対してほとんど情報を提示してくれなかった。 この調査は根気のいる作業になる予感はしていたものの、その核心に至るまでに十年の歳月を要した。 カミホシムラに来て調査を開始してから十年ほど経ち、カミシマイマツリの時期が近づいてきたある日、私はカミホシムラの長老に呼ばれた。 長老は私に向かって簡単にカミホシムラの伝承とカミシマイマツリの説明をした後、カミホシムラに不つり合いなあの近代的モニュメントを指差して言うのだった。 あの抱きつくようにもたれかかるのがカミサマの真の姿だ、と。 たしかに民俗学的に見て、他社会と隔絶した閉鎖社会において他の文化から漂流してきた道具やオブジェを神として信仰の対象にする風習は、他でも見受けられることなので、はじめはあのモニュメント自体がカミサマの偶像として崇拝されていたのだと考えていた。 しかし私はそこに大きな間違いを認めることとなる。 調査を進めると、カミホシムラの人々がどうやらモニュメント自体を信仰しているわけではないということに気づいた。 あるご婦人いわく、カミサマは例のモニュメントにすがりつくようにして立っている、白くキラキラと発光するクリオネのような巨大な存在であるという。 しかし、わたしの目にはカミサマの姿は見えなかった。 それは、信じる者にしか姿を現さぬほんとうの神なのか、それとも。”」
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