神バイト

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ゴウン、ゴウン、ゴウン、ゴウン、ゴウン。 工場内には一定のリズムで刻まれる機械音とともに、教育係を務めるベテラン作業員の声が響く。 「あなた方はアルバイトとはいえ神様です。この工場内に入ったら自分が神様だということを忘れないようにしていただきたいと思います」 「確認ですが、ヘアキャップはみなさんかぶってますね?作業前は手洗いを必ず行なってゴム手袋をつけてください。工場内は衛生面がとても大切になります」 「では作業の説明の方に入っていきたいと思います。作業といっても難しいことではありません。ベルトコンベアから流れてくる肌色の生地がありますので、所定の位置にパーツを付けてもらう、ただそれだけです」 「それぞれの担当パーツごとに眉、目、鼻、口を付けていって、最終的にはプレス機にかけて顔にしていきます」 「パーツの裏側は強力接着剤になっているので、一度つけてしまうとやり直しがききません。配置するパーツの場所はお配りのマニュアルに記載されていますが、位置がずれてしまうと生まれてきた人間に一生恨まれることになるので丁寧にお願いします」 「はじめのうちは要領がつかめないと思いますので、とりあえずパーツを乗せてみましょう。多少ずれていれも構いません」 「急ぐ必要はありませんよ、ゆっくり確実に。どうですか?位置通りに置けましたか?」 「はい、そこ失敗しても騒がない!ブスとか言わない!ブスじゃないよ。個性です。顔には人それぞれ個性があるのが当たり前ですから、多少位置からずれていても問題はありません」 「業務中は私語もなるべくしないように。勤務態度と能力が評価されれば、正規神様として採用される可能性も十分考えられるので、非正規神様のみなさん、今日も一日がんばりましょう」
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