2.彼

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りょうちゃんと麻友ちゃんと一緒にいる時間が何よりも幸せで、他のものに代えがたい時間だと思っていた。 りょうちゃんと麻友ちゃんと私。運よく同じ学校で、同じ教室でずっと一緒に来れたけど……今回が分かれ目だ。 大学と就職。 りょうちゃんは就職で、私と麻友ちゃんは大学。 ずっと三人一緒だったのに、これで離ればなれになってしまう。 りょうちゃんが麻友ちゃんを見つめている姿には、いつも心が締め付けられて辛かった。 だから、これで良かったのかもしれない。もうその姿を見ることはないんだから。 「ねえ、りょうちゃん」 麻友ちゃんが掃除当番で、私とりょうちゃんがそれを待っている時は私にとって貴重な二人きりの時間だった。 そんなことを思ってしまう私は嫌な女の子かもしれない。そう思い、心の中で『ごめんね麻友ちゃん』と呟いてから、携帯のゲームに夢中になっているりょうちゃんに声を掛ける。 「ん? なに?」 ゲームを一回中断して、私の方に向き直る。 そんな律義なところも好きだな、とほっと笑みを浮かべてしまう。 「りょうちゃんは好きな人いるの?」 なんでもないような、今日のテレビなにやるんだろうくらいの感情で話した言葉。 必死に声が震えないようにと願って、紡いだ言葉。 「はあ!? 好きな人!?」 私の言葉に目を見開いて繰り返すりょうちゃんにゆっくり首を縦に振った。 「うん、好きな人」 「なんで急に」 「い、今まで聞いたことなかった気がして。ほら、卒業するまであと少しだし、一応恋の話とかしてみようかと思って」 あははと笑って誤魔化すと、りょうちゃんも「なんだよ、それ」と笑う。 「好きな奴でもできたの?」 茶化したように聞いた言葉。 些細な冗談交じりの言葉が、私の心に突き刺さる。 まるで槍で一突きされたかのような気分だ。 「そんないるわけないよ。りょうちゃんもいないでしょ?」 ああ、嘘ついちゃった。 りょうちゃんは、嘘つくのかな。 正直に言うのかな。 お願いだから、これだけは。 嘘ついてほしいな……。 考えるように私から視線をはずした彼に、願うように視線を送る。 お願い。どうか、いないって……いないって言って。 「いないよ、好きな人なんて」 りょうちゃんはいつだって正直で真っすぐな人。  
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