最終話  事の発端

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カイトは呟き、目尻を下げつつ大根に食らいついた。 ゲンジロウは玉子を半分だけかじって舌先に乗せ、白い息を撒き散らしている。 ーー劇薬、ねぇ。 ゲンジロウに心当たりが無いでもない。 実際彼は体の異変をなんとなく感じていたのだ。 どこが痛い、ここが腫れたというような、具体的な症状は挙げられない。 健康診断もオールパス、せいぜい太り気味を指摘されたくらいだ。 それでもどこか、変わってしまった気がしてならない。 そう思いつつも、恐ろしい。 不安を分かち合いたいが、現実を知るのが怖いのだ。 なので仲の良い部下相手でさえ、何も相談出来ずにいる。 お互い無言のまま、夜景を眺めつつ、暖かい食事を堪能している。 ゲンジロウはひとまず心配事を他所へやった。 近いうち、何かのタイミングで打ち明ければ良いか。 まぁ差し当たって年明けにでも。 そんな取り留めもないことを考えていた時。 ーーそれは起きた。 ーーガシャァァアン! 爆音とともに地面が大きく揺れた。 道路の方からである。 「え、え、何?」 「ゲンジロウさん、事故ですよ!」 「大変だ……とにかく助けよう!」 「了解です!」 2人はすぐに現場へと駆けつけた。 そこには乗用車2台が停まり、正面が大きくひしゃげていた。 正面衝突の事故だろう。     
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